キシダさんは、エヴァの小学校とカポレイの高校で、授業の内容を視覚的に捉えるため、よく紙に鉛筆を走らせていたという。「先生が南北戦争について話しているときなんかは、大砲の落書きをしていたよ」とキシダさんは言う。絵を描くことは彼にとって、世界とつながり、情報を処理する術であるだけでなく、彼の競争心をかき立てるものだ。白紙のページは、自分自身への挑戦状だったという。
何年もかけて練習を重ねたキシダさんの絵は、大まかな描写から、より意図的な線描画へ、そして立体的な風景画へと進化していった。ハワイ・パシフィック大学では、デジタルアートツールを試し、アドビイラストレーターの持つ多彩な機能と精密さを楽しんだ。「イラストレーターは僕にとって画期的なものだった」と彼は言う。「急に真っ直ぐな線や完璧な円が描けるようになったんだからね」。
20代半ばになると、キシダさんはデジタルアートに本格的に取り組むようになり、落ち着いたアースカラーを基調とし、アールデコとミニマルな美学を組み合わせたキシダさんの特徴的なデザインが確立していった。2020年に海兵隊に入隊した後、キシダさんは規律の厳しい軍隊での生活とのバランスを取る手段として、アート活動にのめり込んむようになった。今では海兵隊の作戦将校となった彼は、デジタルアートにますます力を入れ、隙あらばパソコンに向かって製作活動に励んでいる。「部隊の演習やイベントの企画、訓練、指導という日中の仕事では、真剣さと分析力を必要とするんだ。アートは、その反対にある遊び心や創造性に満ちた自由な精神を養ってくれる」と語る。
キシダさんさんの作品は、サーフィンやサーフアート、南国の風景、歴史書のミリタリーグラフィック、彼が訪れた異国の地など、心動かされるシーンやイメージに影響を受けている。海のさざ波や葉っぱの質感など、シンプルでありながら、見る人に「日常の雑音や雑念から解放される」ような感覚を与える。
キシダさんはアイデアが浮かぶと、デジタルビジョンボードに画像を集めて、その構図を頭の中で手書きでイメージし、イラストレーターで白紙のページを開いて制作を始める。見る人を楽しませ、元気づけるような作品を目指しているというキシダさんは、「自分の手で何かを作りあげたいという思いを抱いてほしいんだ。そして彼らの空間をより良いものにしたい」と語る。
キシダさんの代表作ともいえる『トヨタ・タコマ』は、ネイビーブルーの制服の下からローカルボーイの姿が顔を覗かせる作品だ。波と滝の前に停められた、彼が「ハワイ州の非公式な車」と呼ぶトヨタのTacomaトラックには、後部座席にサーフボードが積まれ、「You had me at Howzit」(ハワイのスラングの「調子はどう?」にメロメロ)と書かれた完璧に整ったタイポグラフィで縁取られている。
※紹介したアーティストについて詳しく知りたい方は公式サイトをご覧ください。
rkishida.com/