オアフ島ウエストサイドでは、エコ派の高校生たちがこの地域のティーンエイジャーに対する根強い偏見と戦っている。ウエストサイドの若者は、いつだって相手を“スクラップ(つぶす)”したがっている、つまり喧嘩っ早くて荒っぽいという偏見だ。ナナクリ高校でハワイ語を教えるミッシェル・パイパーさんに導かれ、〈スクラッパーズ・ユニオン96792〉の生徒たちはごみの埋立地に送られるはずの段ボールを救済し、ウエストサイド初のコミュニティによるコンポスト運動を牽引するだけでなく、ごみの再生技術を人々に広めようとしている。「そう、わたしたちは“スクラップ”したいんです」とパイパーさん。「食べものでも段ボールでも、どんどんスクラップしますよ」
すべては、学校の給食の残りをどうにか有効に使えないかというところからはじまった。2020年、新型コロナウィルスのロックダウンがはじまった頃、パイパーさんはごみを資源に変えるボカシ技術の利点について調べはじめた。ボカシとは、無酸素の細菌を利用して、肉や乳製品、脂肪を含めた有機物を分解する効率的なコンポストづくりの手段。ほかの手法と違って換気や水を必要とせず、二酸化炭素やメタンガスも出ないし、匂いもほとんどない。ロックダウン以前は学校のカフェテリアで余った食べものがそのままごみとして廃棄されていたと知ったパイパーさんは、同僚たちにも参加を呼びかける。コンポストづくりはハワイに従来からある価値観にもとづいているし、社会奉仕の精神を培う活動は学校の教育目標の延長線上にあった。
〈ノースショア・コミュニティ・コンポスト運動〉を創立した人々からバケツでのボカシづくりの特訓を受けたパイパーさんは、〈サークルパック・ハワイ〉に問い合わせて、段ボールのリサイクルを学校でどう教えるべきか意見を仰いだ。〈サークルパック・ハワイ〉は、再生段ボールで土に帰る梱包材をつくるハワイ島の会社だ。さらにパイパーさんは、教室でボカシ技術を教える費用をまかなうために、ハワイ語で”コミュニティを大切にする”を意味する非営利団体〈ハナイ・カイアウル〉を立ち上げ、オンライン授業にもボカシ技術を盛り込んだ。2020年の春から夏にかけては、ボカシ技術や段ボールの再生をもっと深く学ぶために、生徒たちを農場やコミュニティガーデンへと引率した。2021年、新型コロナウィルス関連の規制が緩和されると、ナナクリ高校の若きエコ戦士たちは、さまざまな学校や〈ホオマル・オ・ナ・カマリイ〉青少年シェルターのようなコミュニティスペースでプレゼンテーションを行い、自分たちが学んだことを分かち合うようになった。
現在、選択科目でハワイ語の授業を受けるナナクリ高校の生徒たち約120名は、ボカシコンポストをつくり、段ボールを再生し、ごみを出さない取り組みについて学んでいる。昼休みには交代でカフェテリアの食品ごみを集め、教室のボカシバケツに加える。コンポストのもととなる生ごみ5、6センチごとに、水と糖蜜、ふすまと微生物からなるボカシミックスをふりかけて発酵をうながす。養分たっぷりのコンポストは屋外のコンポスト容器に移されるか、ナナクリ高校とナナクリ中学校の共有キャンパスで行われている土地に根ざした教育プログラム〈ホオプラプラ・アカデミー〉の生徒たちに託される。段ボールがあるときは、テープやホチキスの芯を取り除き、シュレッダーから出てくる波状のボール紙で土に帰るプランターや梱包材をつくっている。
〈スクラッパーズ・ユニオン96792〉は、自分の時間を地域全体のコンポストづくりやリサイクル運動に使おうというひと握りの生徒たちからはじまった。ごみゼロを目指すこの運動に参加する生徒が増えるにつれ、イベントを主催し、パートナーシップを結び、自分たちのメッセージをオアフ島内のほかの学校やクラブと分かち合うようになった。自分たちの土地を守ろうという彼らの熱意を示すグループ名に地域の郵便番号を加えたのは、誰でも歓迎というウエストサイドの人たちへのメッセージでもある。
〈スクラッパーズ・ユニオン96792〉は毎月一度、週末に”サステイナブル・サタデー”というイベントを主催している。ナナクリ高校のキャンパスで段ボールを断裁するイベントで、段ボールと引き換えにCSA(コミュニティ・サポーティド・アグリカルチャー 地域で農業を支える)ボックスをもらえる。この箱に入れる新鮮な作物や食品を寄贈した農家の人々は、替わりに乾燥を防ぐために作物や果樹の根もとに敷いたり、うさぎ小屋や鶏小屋に撒いたりするボール紙を受け取る仕組みだ。
2022年12月、〈スクラッパーズ・ユニオン96792〉はアメリカン・セービング銀行のケイキ・カンパニー・ビジネス・プラン・コンテスト(子供によるビジネスプランコンテスト)で25,000ドルを獲得した。それを資金にますます活動の輪を広げ、ナナクリ小学校やカポレイ高校、ホオラ・リーダーシップ・アカデミー、ハワイ聾唖学校など各学校がごみゼロ運動をスタートするのに協力した。
サステイナビリティを意識した授業や〈スクラッパーズ・ユニオン96792〉の活動のおかげで、ウエストサイドではコンポストや段ボールのリサイクルが一般に浸透しつつある。また、ナナクリ高校では圧倒的な比率を占めるネイティブハワイアンの生徒たちが、自分たちのルーツを見直すきっかけにもなっている。「生徒たちにいつもこう話しているんです。“あなたたちのいちばん大切なクリアナ(恩返し)は立派なクプナ(先祖)になることだ”って」パイパーさんはこう語った。「“あなたがこの教室で勉強できるのも、あなたのクプナ(先祖)がさまざまな試練を乗り越えてきたから。次の世代も同じ恩恵が味わえるように、アイナ(土地)を守るのもあなたたちの役目だよ”ってね」