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Season 13

蘭の一族

家族経営のビジネスにちょっと個性的なひねりを加えたウエストサイドの蘭農家をご紹介します。



ジェレミー・ドミンゴさんは毎日早朝から田舎道を西に向かって、ワイアナエの山々と太平洋のちょうど中間に位置する広い農地にやってくる。アメリカンフットボールのフィールドほどもある大きなビニールハウスのなかでは、あらゆる色やかたちの蘭の花たちがジェレミーさんに愛情をこめて世話してもらうのを待っている。

ジェレミーさんの両親、カーメラとスタン・ワタナベさんがはじめた2エーカー(約2,500坪)の種苗園〈エス・アンド・ダブリュー・オーキッズ〉は、園芸店への卸売りとオアフ島内外の愛好家のために、驚くほどたくさんの蘭だけでなく、さまざまな珍しい植物を育てている。家族経営の農園の歴史は深い。

「両親はワイパフの自宅で瓶のなかで蘭を増やす実験をしていました」ジェレミーさんは1990年の農園の原点を振り返る。「無菌の環境でフラスコのなかの蘭の種を発芽させ、一年後に植えつけるまで、両親はすべての工程を手がけていました。むずかしいからこそ意欲を燃やしたんだと思いますよ」

未知の業界にいきなり飛び込むのは危険な賭けだが、ワタナベ夫妻はずぶの素人というわけでもなかった。カーメラさんの父、ヤスジ・タカサキさんは蘭の名人として知られた人物。1960年、ハワイ島ウマウマ地区のハカラウ村で、敷地4エーカー(約5,000坪)の種苗園〈カーメラ・オーキッズ〉を起こした。もとは〈ハカラウ砂糖農園〉の栽培の管理をしていたタカサキさんとその妻ミツコさんは、斑点の入った鮮やかなラベンダー系の花弁が珍重されるヴァンダ・ミス・ジョアキムという蘭を育てる一方、ハワイのレイ・メーカーのために一日35,000個の花を収穫していた時期もあったそうだ。二人の息子シェルドンさんとジェリットさんの勧めで、タカサキ夫妻は次第に主力商品を鉢植えの蘭に移行していく。一方、シェルドンさんとジェリットさんは大学で専攻した園芸学の知識を生かし、大規模な農園における交配やクローン栽培に取り組んだ。

高校卒業後のジェレミーさんは、両親がはじめた〈エス・アンド・ダブリュー・オーキッズ〉をところどころで手伝ってきた。21歳で本腰を入れて家業に取り組むようになり、その年の大半は蘭の見本市をまわって過ごした。創業当時の売り上げの大半は米国本土とプエルトリコへの蘭の輸出によるもので、ウォリーズ・ガーデン・センターやロングス・ドラッグなどオアフ島に点在する小型店舗への卸売りの売り上げは微々たるものだった。

外国のスーパーファームとの競争に敗れ、多くの蘭農家が姿を消していくなか、〈エス・アンド・ダブリュー・オーキッズ〉はスタンさんとカーメラさんがそれぞれ社長と副社長となり、ジェレミーさんが日常業務を切り盛りしながら、状況にうまく順応して生き延びてきた。今日ではコストコやウォルマート、ホーム・デポといったオアフ島内の大型店舗と強固な関係を結び、大口の卸売りでビジネスを支えている。「アメリカ同時多発テロ事件を乗り切ったあと、うちはローカル市場を中心にやっていこうと決めたんです」ジェレミーさんは振り返る。「大型店舗にうまく食い込めたのはタイミングがよかったんでしょうね。こうして取引が続いているのはありがたいことですよ」

〈エス・アンド・ダブリュー・オーキッズ〉の現在の主力商品は、さまざまな花の色と開花期間の長さでますます人気の胡蝶蘭だ。ジェレミーさんはほかにもデンドロビウム、オンシジューム、ヴァンダ、カトレヤなど、さまざまな属種の多種多様な品種を栽培しながら、よそでは見られない色やかたち、サイズの品種を生み出そうと新たな交配を続けている。外側にある3枚の萼片(がくへん、セパル)が内側の3枚の花弁を取り囲む花の構造はすべての蘭に共通しているが、多様性に富む蘭のなかでもとくに人気の品種もある。バブルガムの匂いのするエンサイクリア・ラディアタやオレンジの花が滝のように連なるカトレヤ・ラビアタ(通称ビッグリップ)、紫紅色とバナナ色の斑点が浮かぶブラッソレリオカトレヤ・ワイアナエ・レオパードなどがそれだ。

2020年にコロナ禍がはじまったとき、ジェレミーさんは自身の好奇心だけではなく顧客からのリクエストの増加もあって、近くの種苗園をくまなく探したり、遠くの農家から取り寄せたりして、なかなか手に入らない植物を集めるようになった。今ではモンステラやティランドシア(エアプランツ)、アロエ、ガステリア(アロエに似た植物で、長く尖った葉を持つ)、ハオルチア(小さな多肉植物)、エケヴェリア(ロゼット型の多肉植物)など、驚くほど多様な珍しい草花を扱っている。

フェイスブックやユーチューブ、インスタグラムの〈エス・アンド・ダブリュー・オーキッズ〉のページには、魅惑的な蘭のイメージが数多く並ぶ。ジェレミーさんは、独特のユーモアに富んだ口調で50年も前からあるという巨大なデンドロキラム・マグナム(オーキッド・ダイナスティ)や龍のかたちの葉が二色に分かれているフィロデンドロン・ゴールデン・ドラゴンなど、超がつくほど珍しいお気に入りの草花を紹介している。

ジェレミーさんの叔父シェルドンさんが率いる〈カーメラ・オーキッズ〉は今もハカラウ村で順調に経営を続けている。もうひとりの叔父ジェリットさんもヒロで別の蘭農園〈ハワイ・ハイブリッズ〉を経営中だ。農園では毎日長時間、植物に情熱を傾けるジェレミーさんだが、熱中し過ぎないように気をつけていて、ワイパフの自宅の庭は石の上にいくつかの多肉植物が並ぶほかはセメントと砂利しか目に入らない。「仕事は家に持ち込まないようにしているんです」ジェレミーさんはにやりと笑った。「なんだかんだ言っても、ぼくは庭仕事が嫌いなんですよ」

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