コオリナ・センターにある〈ブラック・シープ・クリーム・カンパニー〉。オーナーのタシ・レイドさんが、自家製のできたてワッフルコーンに手際よくアイスクリームを盛っていく。「子供のときから、家族そろって毎晩アイスクリームを食べていました」とレイドさん。「誰が盛るかはいつだって重要なポイントでした」
自称アイスクリームマニアのレイドさんは、小さい頃から自分のビジネスを持つのが夢だったそうだ。だが、アイスクリームへの情熱を仕事として成立させるためには、アイスクリームづくりのすべてを短期間で学ぶ必要があった。自宅のキッチンにあったクイジナート社の小さなアイスクリームメーカーで、レイドさんは何ヶ月も試行錯誤をくり返した。「基本的にアイスクリームの材料は生クリームと牛乳、砂糖の3つだけです。でも、アイスクリーム作りには科学的なあらゆる要素が影響します。脂肪と糖分の絶妙なバランスを見つけなければなりません」レイドさんは笑ってつけ加えた。「脂肪も砂糖も、ためらわずにたっぷり使わないとだめなんですよ」
やがてアイスクリームの基本レシピができあがり、いよいよ本格的な実験がはじまった。実験が楽しくなるのはここからだ。「フレーバーを生み出すのは楽しかったですよ」リサーチと実験に明け暮れた初期の頃、レイドさんは友人や家族を招いては新しいフレーバーを試食してもらったそうだ。そして、いつもこう尋ねた。「何かピンとくるものがある?」ほどなくして、ベースとなる15種類のフレーバーが決まった。(15種類もあれば十分に思えるが、レイドさんが言うように「31種類はあってあたりまえ」なのだ。)店の名前も決まった。〈ブラック・シープ・クリーム・カンパニー〉“異端児”の意味を持つ黒い羊。それは、そんじょそこらのアイスクリーム屋とは違うぞ、という不敵な宣戦布告だった。
新しいフレーバーを生み出すのはもちろん、フレーバーの名前を考えるのがいちばん好きだと言うレイドさん。人気があるのは《It’s Gonna Be a Rocky Road ロッキーロード(難儀な道のり)になりそうだ》や《Honey Dew You Boo Boo(ハニー・デュー・ユー・ブーブー)》、《Go Shawty, It’s Your Birthday(50セントの歌詞からの引用)》など。つい最近登場したのは《I like Pig Butts and I Cannot Lie(ぶたのお尻がホントに好きなの》と名づけたフレーバーで、メイプルシロップ味のアイスクリームにベーコンのかけらが入っている。当初は型破りな商品名に怪訝な顔をする人もいたが、ぴったりの名前だというレイドさんの自信は揺らがない。「しょっぱさと甘さのバランスが完璧なんです」このフレーバーは驚くほどのヒットとなったそうだ。
2017年、ワイピオに最初の店を開いてから、ワヒアワ、カカアコ、そして新たにコオリナと店舗を増やしてきたレイドさん。アイスクリームの製造専門のフルタイムの従業員が3人、一度に少量しか作らない大人気のアイスクリームの需要に応えるべく作業にいそしんでいる。「たとえわたしが休暇をとっても、作業が中断することはありません」とレイドさん。冷たいデザートづくりは終わりのない作業だが、“おいしい”仕事なことは間違いない。
レイドさんは結婚し、2歳になる娘ナイラちゃんも生まれた。レイドさんの子供時代と同じように、ナイラちゃんも毎晩アイスクリームを食べるのかと尋ねると、レイドさんはにっこり笑ってうなずいた。「我が家の甘い習慣になりました」