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Season 11

ワイアナエは語りかける

初版発行から半世紀を経て、ワイアナエの過ぎ去りし時代を映す壮大な物語が今、よみがえります。



1969年、23歳のエド・マクグラスさんはマーカハ小学校とワイアナエ小学校で幼い子供たち相手に教鞭をとるために、ワイアナエ・コーストに到着した。〈ティーチャー・コープス〉という教師派遣プログラムの新任教員だったマクグラスさん。4、5、6学年を担当することになったが、カリキュラムにはなんの知識のないハワイ史も含まれていた。ワイアナエの歴史について知っていることは、と生徒たちに尋ねても誰も手を挙げない。「そこで、家に帰ってお母さんやお父さん、おばさん、おじさん、そしてクープナ(敬われるお年寄り)の話を聞いて書き記すという宿題を出したんです」マクグラスさんは振り返る。「文法やスペルの間違いなどは気にせず、思ったとおりに書くように言いました」

彼が地域の物語を集めていると知ったワイアナエ小学校のボブ・モア校長から、人々の敬愛を集めるカナカ・マオリ(ネイティブ・ハワイアン)女性、エミリー・ピカデューラさんの話を聞くように勧められたマクグラスさん。ピカデューラさんは当時90歳代前半で、ワイアナエ砂糖会社の最盛期に蹄鉄工、電気技師、そして灌漑の専門家として活躍したジャキンス・ピカデューラさんと結婚し、ウエストサイドの劇的な変化を目撃してきた人だった。マクグラスさんは昼下がりに何度かピカデューラ邸を訪ね、変色した写真を手に取りながらエミリーさんが語る若き日の物語に耳を傾けた。そして、ピカデューラさんの厚意で、古きよき時代の知識の宝庫であるたくさんのクープナたちの知己も得るのだが、ナーナークリ在住のジェイ・ランディスさんもそのなかのひとりだった。マクグラスさんは“アンクル・ジェイ”にも可愛がられ、喜んで昔話をしてくれるワイアナエ生まれの人々をもっと紹介してもらったそうだ。

新しく暮らしはじめた土地への単なる好奇心からはじまったことは、歴史だけにとどまらず、ワイアナエ・コーストに暮らす人々とその精神を記録する地域あげての大事業になった。原稿執筆にあたり、マクグラスさんは『ホノルル・アドバタイザー』紙のコラムニスト、ボブ・クラウスさんの協力を仰いだ。そして、壮大な作業である情報収集には同僚のケン・ブルーワーさんを引き込んだ。それから2年以上かけて、ふたりはナーナークリからマークア全域に暮らす100人以上のーナカ・マオリの話に耳を傾け、話の内容を丹念に書き留めた。マクグラスさんもブルーワーさんもよそ者だったが、声をかけた人は誰もが気持ちよくインタビューに応じてくれたという。

歴史の教科書よりもよっぽど総合的な回顧録となったプロジェクトは、世代を超えて語り継がれてきた物語を安心して披露できる場だった。「こちらの意図が純粋で、他意がないことが伝わったのでしょう」マクグラスさんは振り返る。「すべて、とまでは言いませんが、ワイアナエの人々がわたしたちを信頼して披露してくれた伝説のほとんどは、それまで家族以外の人に同じように明かされたことはなかったと思います」

1973年12月8日『歴史が語るワイアナエ 王たちが暮らした場所』の初版にしてたった一度の印刷となった4万2千部が完成し、半年で完売した。初版は今日、コレクターズアイテムとみなされ、ハワイの特定の地域の歴史がもっとも詳しく綴られた書籍のひとつとされている。

初版から50年を経た今、マクグラスさんは〈ワイアナエ・ハワイアン・シビック・クラブ〉の協力を得て、彼が直接聞き取った数々の証言やそれぞれの家庭に伝わる昔話が織りなす、まるで手の込んだキルトのような同書をふたたび世に送り出す。今回は電子書籍とオーディオブックという形式だ。同クラブの会長ジョジェット・スティーブンスさんによると、2023年初頭、マクグラスさんから資金援助依頼の連絡を受けたタイミングは、気味が悪いほど絶妙だったそうだ。「ワイアナエのネイティブ・ハワイアン家庭を支援するための非営利団体〈フイ・フリアウ(転機)〉から大きな寄付を受けたばかりだったんです。ここでわたしたちが援助しないでどうする、と思いました。ハワイの人がハワイの歴史を後世に伝える。その一助になれるなら、クラブとしてこの上ない喜びじゃないですか!」

スティーブンスさんは、12歳のときに『歴史が語るワイアナエ 王たちが暮らした場所』に出会い、高祖父にあたるハリー・ジョージ・ポーさんの口述を発見して以来、同書のファンなのだそうだ。「この本のおかげで、1906年当時の高祖父の経済的苦労を垣間見ることができました。オハナ(家族)を支えるために、高祖父はさまざまな職に就いたようです」再版にあたり、スティーブンスさんは、〈フイ・フリアウ〉の創設者であるエイドリアン・ナケア・シルバさんや、熟練の語り部であるロパカ・カパヌイさんらとともに、オーディオブックの一部の朗読を担当している。オーディオブックのハイライトのひとつは、“ワイアナエのカーネアナ洞窟“伝説。サメの神ナナウエの住処で、ナナウエの罠にはまって犠牲になった人々の魂がさまよう洞窟の物語で、カパヌイさんは実際に海のそばの神秘的な洞窟で朗読を行なっている。

『歴史が語るワイアナエ 王たちが暮らした場所』50周年記念版は、このプロジェクトのためにつくられた独自のプラットフォームで2023年10月に出版予定。記念版にはデジタルで加工されたおよそ300点の写真も含まれている。多くは一世紀以上も昔の写真で、同書が誘うワイアナエの過去の世界をより深く味うためのボーナスコンテンツも含まれる。「この本は、ワイアナエに暮らす人々に自分たちが何者なのか、昔に比べてどれだけ変わったのかを知る機会を与えてくれるでし ょう」スティーブンスさんは語る。

電子書籍版にはささやかだが重要な変更があった。内表紙のタイトルに一文が加えられ、新たに『歴史を刻むワイアナエ 王、女王、そして英雄たちが暮らした場所』となったのだ。

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